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大分地方裁判所 昭和40年(ワ)236号 判決 1968年2月23日

主文

被告らは原告に対し、別紙目録記載の宅地及び建物を明渡せ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

原告は、主たる請求として「主文同旨」の判決ならびに仮執行の宣言を、予備的請求として「原告に対し、被告那賀勇隆は金二六六、六六六円六六銭、その余の被告らは各金一三三、三三三円三三銭及びこれらの金員に対する昭和三九年四月一五日から同年六月一五日までは年一割八分の、同月一六日から支払済に至るまでは年三割六分の各割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

被告らは右各請求に対していずれも請求棄却の判決を求めた。

第二、当事者双方の事実上の主張

一、請求原因

(一)  主たる請求の原因

原告は昭和三九年四月一五日那賀ヨシ子に対し、金八〇〇、〇〇〇円を利息月四分、遅延損害金月六分、弁済期同年六月一五日と定めて貸付け、同時に同人との間に右弁済期までに右債務を弁済しないときは、原告はその代物弁済として別紙目録記載の宅地建物(以下本件宅地及び本件建物と略称する)の所有権を取得することができる旨予約したが、同人は弁済をしないため、原告は同年八月一日同人に対して右代物弁済の予約を完結し所有権取得の登記手続をなした。もし右宅地建物が右ヨシ子の所有でなかつたとするならば、右の約束によつて同人はこれらを取得して原告に譲渡すべき義務を負うに至つたものであるが、同人は昭和四一年八月一二日死亡し、被告らがその義務を相続した。しかるに被告らは本件宅地建物を占有しているのでこれが明渡しを求める。

(二)  予備的請求の原因

仮りに、原告が右代物弁済によりその所有権を取得していなかつたとすれば原告は那賀ヨシ子に対し、右の貸金債権を有するところ、同人の死亡により被告勇隆はその夫として三分の一、その他の被告らは子として各六分の一あての各相続分に応じてその債務を共同相続したので予備的請求の趣旨記載の各金員及びこれらに対する約定の割合を利息制限法の制限の範囲内に引直して貸付日以降返済期までは年一割八分の割合による利息、ならびにその翌日以降支払済に至るまでは年三割六分の割合による遅延損害金の各支払を求めた。

二、請求原因に対する被告らの認否

ヨシ子が死亡し、被告らがその共同相続人となつたこと及び被告らが本件土地・建物を占有していることは認めたが、その余は否認し、本件宅地・建物はいずれも被告那賀勇隆の所有であり、ヨシ子の所有となつたことはないと述べた。

第三、証拠関係(省略)

理由

一、原告主張の代物弁済契約の存否につき判断するに、成立に争いのない甲第三、第四号証、乙第二号証、官署作成部分の成立については当事者間に争いなく、その余の部分については原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一号証、官署作成部分については当事者間に争いなく、その余の部分については作成名義人那賀ヨシ子名下の印影が同人の印鑑によるものであることが当事者間に争いがないので真正に成立したものと推認できる甲第七号証、証人田辺三郎、同西川啓一及び同佐藤鉄生の各証言ならびに原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和三九年四月一五日那賀ヨシ子に対し、金八〇〇、〇〇〇円を弁済期同年六月一五日と定めて貸付け、同人との間にその債権の担保として登記簿上ヨシ子所有名義になつていた本件宅地・建物に抵当権を設定し、かつ右弁済期までにヨシ子が右債務を弁済しないときにはその所有権を原告に移転することを予約し、同月一六日その登記手続を経たこと、その後ヨシ子は右弁済期を経過するも右債務の弁済を怠つたので同年八月一日原告は同人に対し右代物弁済の予約完結の意思表示をしその旨移転登記手続をなしたことが認められ、右の認定に反する証拠はない。ヨシ子が右予約完結当時本件宅地・建物の所有者であつたとするならば、右認定により原告の右予約完結と同時に、右不動産の所有権は原告に移転したものである。しかるに、被告らは右不動産は被告勇隆の所有に属し、ヨシ子がその所有者となつたことはないと主張しているが、もしかりに、そうであるとすればヨシ子は、他人所有の右不動産を代物弁済の目的としたもので、これを取得して原告に給付すべき義務を負担していたところ、ヨシ子は昭和四一年八月一二日死亡し、被告勇隆はその共同相続人の一人であつたことは前記の通り当事者間に争いがない以上、同被告はこの義務を承継し、もつて右不動産の所有権は被告勇隆から原告に移転したものといわなければならないから、いずれにしても、原告が右代物弁済により本件宅地建物の所有権を取得したものというべきである。ところで本件土地・建物を被告らが現在占有していることは当事者間に争いがなく、かつ原告に対してこれが占有を対抗すべき権原について何らの主張立証はないから被告らは原告に対してこれを明渡す義務がある。

二、よつて、原告の被告らに対する本訴主たる請求は理由があるからこれを認容し、予備的請求に対する判断はなさず、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決し、仮執行の宣言については相当でないからこれを付さないこととする。

別紙

目録

大分市都町三丁目六八番地

宅地   六三、七〇平方メートル

同所同番

家屋番号六八番

木造瓦葺二階建店舗兼居宅

一階 四七、一〇平方メートル

二階 四二、九七平方メートル

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